2025年4月17日 お知らせ

ジャポニムズと日本のモノづくり

ジャポニズム(Japonisme)と日本のものづくり。異なる文脈で生まれた言葉ですが、その底流には共通する日本人の精神があるようです。

なぜ日本のモノづくりが世界で注目されるか、ジャポニズムから考えてみます。

ジャポニズムとは?

ジャポニズムはそのまま訳すと「日本様式」という意味ですが、実際には1800年代後半にフランスを中心にヨーロッパで流行った日本文化への強い関心・美術としての評価の潮流を指します。

英語ではジャポニズム(Japonism)と呼ばれますが、フランスではジャポニスム(Japonisme)と呼ばれたりします。

ジャポニズムは1900年代前半から日本文化が国外の文化や生活に影響度を増すきっかけになります。その前の1853年のペリー来航(黒船)で既に、西洋との交易が本格的に始まっていましたが、浮世絵や着物、陶器、漆器、刀剣、屏風など日本固有の生活品、工芸品、美術品が本格的に評価され始めるのがこの年代です。

ジャポニズムはゴーギャン、モネなど西洋の画家やデザイナーに強い影響を与え、日本家屋や橋といった建築手法・造形も、欧州の建築家たちにも新たな考え方をもたらしたと言われます。

日本のモノづくりが持つ「シンプルさ」「機能美」「自然素材の活用」が、当時の西洋で主流だった装飾的で過剰なデザインとは異なるものだったため、革新的に映ったようです。「日本的なもの」への憧れがジャポニズムの本質だったのです。

ジャポニズムには以下の特徴があると言えます。

庶民文化

浮世絵は富士山や町並みなどの風景や遊郭の女性、歌舞伎役者などを題材とした木版画で、手軽に楽しめる娯楽として江戸時代に広がった庶民文化です。

そのため、当時の日本では浮世絵は「美術品」というよりも、日常生活の一部として親しまれていた大衆物、今でいうポスターやマンガのようなものでした。これが西洋では美術品として受け入れられたということになります。

大衆の生活に根ざした「実用」が明確な境なく「芸術」と接していたと見ることができます。

シンプル、ミニマリズム

当時、西洋で主流だった装飾過多で豪華なデザインとは対称的に、ジャポニズムは簡素で最低限のものからなる「ミニマル」なものでした。

「シンプルであること」が新たな美意識として西洋に受け入れられるきっかけになったと評価されることがあります。

茶道の道具は余計な装飾がなく、機能を果たす以外の要素は極限まで削がれています。また茶道の場も余計なものがなくシンプルな空間です。そのような日本の文化が、西洋の芸術家に大きなインスピレーションを与えました。

自然の観察、調和

日本の美術や工芸には、自然の素材や造形が機能やデザインとして取り入れていることが多く、それが西洋には斬新に映りました。

たとえば、工芸品や建築には竹や紙、木、土などの自然素材がその素材の特性を生かす形で使われることが多いです。和紙、桶、障子、和傘、蓑(みの)、漆器、土壁、竹小舞などです。単に素材として利用するだけでなく、その風合いを美しく残す技巧が日本では発達しました。

 

また、工芸品や絵画、浮世絵には花鳥風月(動物、山、海、桜、雪、紅葉など)が頻繁に描かれてきました。

例えば、葛飾北斎の「富嶽三十六景」や歌川広重の「東海道五十三次」など、自然物を写実的に描きつつ抽象的な要素を取り入れて、自然の美しさを力強く表現する、そんな技法は西洋に新鮮な印象を受けました。葛飾北斎や歌川広重の浮世絵は、西洋の画家(ゴッホ、モネ、ドガなど)に影響を与えたとされます。

当時、産業革命により大量生産、産業範囲の整備、拡大が主題になりがちであった西洋からすると、日本の自然に対する姿勢や美意識が斬新に映ったということです。

職人の技・精神

日本の刀剣や漆器、寺社仏閣や日本家屋、橋の建築などで「用の美」(機能美)が重視されます。

 

白川郷の合掌造りなどに代表される日本の古民家は、まさに「用の美」(機能美)の産物。厳しい雪国の気候に対応するための剛健な構造を持ち、急勾配の茅葺き屋根は雪が自然に滑り落ちるよう設計されています。その一方で、屋内は空間効率がよく養蚕などのスペースが確保されました。周囲の景観ともよく調和し、その風景が人気となり、インバウンドブームが起こる前から外国人観光客が訪れる場所でした。

 

竜安寺の枯山水庭園などの日本庭園は簡素にとどめながら抽象的な美が追求されました。庭園というありふれた場所に「余白」や「ミニマリズム」の美学を表現できることが、西洋の芸術家に新たな視点を与えたとか。

 

谷崎潤一郎の「陰影礼賛」でも書かれているように、日本には独自の美意識に基づく伝統的な表現、「陰影」や「余白」の美を取り入れ、素朴な表現の中に美を表出する技があります。これは単なるミニマリズムとは異なるもので、自然風景や人の表情のエッセンスを最小限の線と形で捉えるものです。

シンプルな表現やデザインは色あせません。

ジャポニズムはその後西洋で起こった「Less is More(少ないほど豊か)」といった建築哲学やモダニズム運動、Apple製品の「シンプルかつ機能的」という哲学に影響を与えたとも言われています。それまで西洋に根付いていた「いかに豪華で過剰な装飾をするか?」から「それらをいかに排するか?」という美意識の転換にジャポニズムが一役買ったのです。

なぜシンプルさが新たな美意識になったかといえば、装飾を省くことで本質に回帰し、より純粋な美が際立つということでしょう。

 

ここまでがジャポニズムについてですが、これはあくまで西洋側からの視点です。日本では昔からジャポニズムの特徴としてあげられるような視点、姿勢で、時間をかけてモノや暮らしを磨いてきました。

日本のものづくり精神

日本のものづくり精神は、1200以上前平安時代より続く日本独自の職人集団や規律と深い関係があります。

平安時代、鎌倉時代、室町時代、江戸時代と、その社会の中で形成された伝統的な職能集団(職人、親方など)が、日本のものづくり精神の基盤を築きました。たとえば鎌倉時代の「機能美」や江戸時代の「削がれた表現、庶民的な娯楽の追求」は、今の職人文化や日本のデザインに深く根付いているという見方があります。

「匠の技」と完璧主義

日本では、刀鍛冶や大工、陶芸家などの職人が技術を極めることに生涯を捧げる姿勢が尊重されてきました。完璧を追求する精神は、現代の日本の製造業の姿勢にも引き継がれています。

自然との調和

神道的な自然崇拝の影響もあり、自然を敬い、素材の特性を生かしてありがたく加工する姿勢が根付いています。木工では木目や節をデザインに活かすことが多いです。

京都にある禅寺「金閣寺」は金箔が施された三層の楼閣で、自然との調和が特徴的。世界遺産にも登録されており、日本文化を代表する象徴的な建築物です。

 

「もったいない」精神

もともと資源が限られている日本。その資源を無駄にせず、限られたものを最大限に活かす考え方は、自然への感謝の念と通じます。とくに、戦後の資源不足からももったいない精神は大切にされ、車の燃費など高効率なものづくりにつながりました。

集団での協働、研鑽

日本には江戸時代前から親方、棟梁、師弟などの「職人文化」が醸成されていました。それにより、技が研鑽され、伝承され、妥協しないものづくりが維持されたのです。

また、個人の天才よりも、チームでの調和と改善を重んじられる傾向があり、それは今も企業の改善(カイゼン)文化として根付いています。そんな背景から、日本企業は常に品質向上・効率化を追求し、加工貿易で価値を高めたり、無駄を省く努力が続けられてきました。

職人文化は厳しいものでしたが、見方を変えれば技の民主性が昔から高かったということも言えそう。

 

    欧米からの技術と日本のモノづくりの融合

    このような日本のものづくり精神が基礎にありながら、日本は欧米の新しい技術や文化、知恵を柔軟な姿勢で受け入れ、融合させてきました。

    たとえば、明治時代に国産初のタービンが建造されると、独自の改良を重ねて現在は世界をリードする高効率発電技術を日本企業が多く有します。

    科学技術でも日本はアジアの中で最もノーベル賞受賞者が多く、特に科学分野での受賞が目立ちます。LED、免疫学、タンパク質の構造分析、蛍光タンパク、量子論、リチウムイオン電池、精密機器などの分野で発見があり、世界で使われる技術につながっています。

    また、半導体や時計、自動車、電子機器など自動車産業や電産分野でも日本の技術は世界的に高い評価を受けています。その例を以下に挙げます。

    新幹線

    新幹線は、西洋の鉄道技術、軌道設計、車両設計技術を応用し、一方で空気抵抗を減らすための流線形デザインや車両の軽量化など独自の技術を融合させ、「世界一速く、世界一安全な鉄道」を実現しました。

    半導体

    半導体そのものはジャポニズムと関係するものではないですが、日本に根付いた「用の美」や「簡素に求める美しさ」の精神が精密設計を進め、半導体の性能が向上していったと言えます。アメリカで発明されたトランジスタ技術が、微細加工技術などで高性能な半導体として開発されていく過程で日本企業が大きく貢献しました。

    日用品・ホビー品

    高精度な金属加工を活かした生活品やホビー用品もあります。

    たとえば、精密加工された印鑑。何もない金属の平面から印面が現れる未来印がアジア圏を中心に人気です。

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    国内:https://hobby-metal.com/products/list?category_id=25
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    また、精密加工されたパズルもご好評いただいています。

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    以上、ジャポニズム(Japonisme)と日本のものづくりの共通性についてでした。

    ジャポニズムは日本の伝統文化が根底にありますが、日本のものづくりも同様に伝統的な日本人の価値観に基づくもの。どちらも、日本ならではの美意識と高い品質が評価されたという共通点がありました。


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